小谷元彦 《サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)》 2022年
Photo by Taichi Saito

宮城県・石巻を中心に開かれてきた総合芸術祭「リボーンアート・フェスティバル(RAF)」。第3回を迎える本年度の後期展示が、石巻市の市街地や牡鹿半島の6つのエリアで開催されている。

東日本大震災から11年、いまも復興と再発展の途上にあると感じる風景のなかで出合い、とりわけ鮮烈な記憶を残した7つの作品を紹介したい。🅼

今年3月、惜しまれながら閉店した鮮魚店「まるか」では、弓指寛治と小説家・朝吹真理子が、震災時のみならず、綿々と続く暮らしにまつわる記憶を街の人々から直接聞きとり、絵と言葉で辿った。

朝吹真理子、弓指寛治 《スウィミング・タウン》より 2022年
朝吹真理子、弓指寛治 《スウィミング・タウン》より 2022年
Photo by MON ONCLE

衛生的ながら使い込まれた生活感が充満する空間、学童の絵日記を思わせる絵画とテキスト、絵に描いた魚を並べた魚屋さんごっこの佇まいがノスタルジーを誘う。

弓指はこれまで「出来事」「自死」「慰霊」をテーマに、主に悲惨な事故や事件についての微細な調査をもとに作品を発表してきた。生々しく当事者に肉薄するストーリーテリングと、朴訥としたナイーブな絵画の組み合わせは、街の隅々に宿る悲喜交々の記憶を炙り出し、あたかも昔からの言い伝えのような手触りを残していく。
 
 
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有馬かおるは、震災の記録展示を行う旧情報交流館と、海と金華山を望むホテルの一室の2会場でインスタレーションを制作した。

有馬かおる 《FAUST IN MARIENBAD by 個の追求の果ての他者性と、その奥にある風景》2022年
Photo by Taichi Saito

有馬が1996年愛知県犬山で、2007年茨城県水戸で開設し、2017年石巻で再び立ち上げたアートスペース「キワマリ荘」の現在地に、みずみずしい感性の震えが息づくことがうかがえた。
 
無為に拾い上げたようで繊細に選ばれた絵画や写真のモチーフと古新聞や地図が呼応し、風の吹き抜ける展示空間は一編の詩のように詠みあげられている。(ティルマンスを彷彿させた) 彼の活動が石巻に次世代のアートコミュニティを育んでいる「今」が眩しい。
 
ところでタイトル「FAUST IN MARIENBAD(マリエンバードの悪魔?)」の意図を聞きそびれた。
 
気になる。
 
 
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梅田哲也は、石巻の由来である「巻石」から着想し、清涼な水が循環するリリカルな空間を作り出した。

梅田哲也 《巻巻石》 2022年
Photo by Taichi Saito

これまでもさまざまな場所で、現場にある有形無形の素材を使って音や光、ムーヴメントを発生させ、そこに「現象」を立ち上がらせてきた。
 
新作《巻巻石》では、川沿いの納屋と井戸を舞台に、重力に逆らい上昇する水の循環を巧みに導き、水やガラス玉の透明感とすでにそこに馴染んだ日用品や自然素材が奏でる清々しいインスタレーションを展開する。
 
視聴覚がライブに受けとる情報によって、意識だけが異界へ連れ去られるような体験に、梅田の作品世界ならではのダイナミズムがある。
 
 
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風間サチコは「新しい山水」をテーマに新作を発表した。

風間サチコ 《FLOW(沖つ国 / 不老山)》 2022年
Photo by Taichi Saito

会場となる蔵の建材である「野蒜石」の採石場をリサーチする中で、奇岩で知られる景勝地が防潮堤で様変わりし、コンクリート壁に挟まれたことを知ったという。
 
かつて松尾芭蕉の見た風景、100年前の絵葉書、震災と津波の爪痕、そして現在の石巻の姿。
 
そこに独自の描き込みを加えることによって、劇的な風景の変化を(劣化でも進化でもない)未来への地平の広がりと捉える眼差しにポジティブな知性を感じた。
 
これまで現代社会や歴史の闇を黒一色の木版画でザクザクと暴いてきた風間の表現が、ここでは悠久の時に委ねられた風景を前に、柔らかな濃淡を際立たせ、慰撫と慈愛を帯びていることが印象的だ。
 
 
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日本とフランスを拠点とする保良雄も、岩塩や海水、鯨の骨など「海の化石」ともいえる素材を使って自然界の悠久のサイクルを表現した。

保良雄 《fruiting body》 2022年
Photo by Taichi Saito

巨大な工場の無機質な空間は、人工物と自然物が渾然一体となった壮大なインスタレーションと化し、それぞれが連関して海水を循環させ、微かな光を明滅させている。
 
また、最も甚大な被害を受けた南浜地区を整備した復興祈念公園でも彼の作品が観られる。

保良雄 《This ground is still alive》 2022年
Photo by Taichi Saito

人の営みの気配を消したこの場所は、石巻市、宮城県、国の管理下にあり、被災地をめぐる政治の象徴ともいえる。
 
川俣正が廃船の木材などを集めて建設中の『石巻タワー』の隣で、保良は砂利の敷き詰められた空き地を再び掘り返し、耕して菜園にした。
 
牡鹿半島の土壌の微生物、農家の堆肥や森の腐葉土により約40種類の野菜が育成されるこの畑は、人工的に封印された公園と対照的に、強靭な生態系の復活を予感させる。
 
 
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この芸術祭のシンボルとなった神獣(名和晃平《White Deer (Oshika) 》)に続くモニュメントも出現した。小谷元彦による、サーフボードの上で翼と腕を広げる天使像だ。

小谷元彦 《サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)》 2022年 Photo by Taichi Saito

軽快にイメージをコラージュするうち、「サモトラケのニケ」の衣を纏った天使は「船首の女神」「タイタニック」といった連想、そして震災当時支援に訪れた匿名の人々の姿を重ね合わせ、両腕を十字に広げたポーズに行き着いたという。
 
さらに男性性と女性性が融合したバランスの取れた形ともいわれる神聖幾何学のマカバ(星形八面体)を頭部に施している。
 
小谷の作品の多くは、造形的なインパクトだけでなく、多面的に散りばめられた図像の読み解きが主題の理解を深めるが、本作もそのひとつだ。救済と守護の天使であり、同時に、軽やかに波を蹴立てる両性具有の巨人であるこの彫像は、自然への畏怖を受け継ぐべき次世代のためのモニュメントになり得る。
 
 
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雨宮庸介の《石巻13分》は、目[mé]と共に、2021年より継続して展示されている作品だ(要予約)。

雨宮庸介 《石巻13分》 2021年
Photo by Taichi Saito

日和山公園の旧レストランで上演される演劇的なインスタレーションは、雨宮のこれまでの創作活動を端的に集約するものだった。昨年石巻を訪れなかった筆者にとっては、本作を見逃したまま1年を過ごし、さらに今回もうっかり見過ごしたとしたら痛恨の極みになり得たであろう作品だ。
 
遮光された店内には家具や備品が雑然と積み上げられている。観客が着席すると、モニターや窓のブラインドに映像やテキストが投影され、きわめて個人的な出来事がドキュメンタリー的に語られていく。
 
雨宮と彼の家族に実際に起こった変化やアクシデントを同時進行で追うごとに、脳内と感情に予期しない混乱が起こる。
 
作家のパーソナリティを知っているか否かに関係なく、この作品はまさに東日本大震災とコロナ禍という2つの災禍に共通する、社会における「当事者性」と他者への「共感」のありようを揺さぶり、再考させるものだった。
 
 
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ここで取り上げた作品を無理にまとめることはしない。作家ごとに伝えたい概念や主題は異なるからだ。
 
とはいえ、筆者がいずれも定点観測的に作歴を見てきたアーティストたちが、再興を目指す被災地で、創作を通して見せた姿勢には新しい発見もあった。
 
芸術祭の持つ特有のコンテクストは、個人の内省では掴むことのできない視点をもたらすことがある。
 
その視点の向かう先に私たち鑑賞者が何を見つけるか、それは一期一会である。

□ この展覧会のオフィシャルガイドブック[PDF]がこちらからダウンロードできます。

リボーンアート・フェスティバル 2021-22[後期]利他と流動性

会期 I 2022年8月20日(土) - 10月2日(日)
会場 I 宮城県 石巻市街地[石巻中心市街地、復興祈念公園周辺、渡波]、牡鹿半島[桃浦・荻浜、鮎川]
開館時間 I
石巻市街地[石巻中心市街地、復興祈念公園周辺、渡波] 10:00 - 17:00 最終受付は16:30
牡鹿半島[桃浦・荻浜、鮎川] 平日 10:00 - 16:00 最終受付は15:30 土日祝 10:00 - 17:00 最終受付は16:30
※施設、作品によって異なる場合があります
休祭日|なし

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