左|ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》(修復前) 1657-59年頃 ドレスデン国立古典絵画館 © Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Gemäldegalerie Alte Meister, Foto: Herbert Boswank   右|ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》(修復後) 1657-59年頃 ドレスデン国立古典絵画館 © Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Gemäldegalerie Alte Meister, Foto: Wolfgang Kreische

17世紀オランダの画家フェルメール。佳き時代の映像が醸し出すような写実的な描写と光や空間に誰もが魅了される。残存する真筆作品は30数点だけ。一度魅了されれば全作品踏破の夢に取り憑かれることも。この寡作の画家の絵が上野と六本木で1つずつ公開中だ。地下鉄日比谷線は今だけフェルメールライン?🅼

「日比谷線」というお題を頂きながら、しょっぱなから私事で申し訳ないが、私は2020年8月、コロナ禍の真っただ中、それまで10数年勤めた東京・丸の内の三菱一号館美術館館長を退任した。そして昨年10月に、今度は上野の東京都美術館の館長となった。70年代初めに大学生生活を送り、1980年からは国立西洋美術館の研究員として26年あまりを過ごした懐かしい上野の山に舞い戻ったことになる。

でも来てみれば、相変わらずコロナ禍の行方は定まらず、美術館界も翻弄され続けている。それでも混乱の合間を縫って、都美の昨年秋の「ゴッホ展」は30万人を超える入場者を迎え、人々の芸術・文化に寄せる飢餓感にも似た思いを如実に示してくれた。そしてこの2月よりは同じ都美で新たに、ドイツの古都・ドレスデンの国立古典絵画館所蔵のオランダ絵画を展覧する「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」が開かれている。他方相前後して、六本木の国立新美術館ではニューヨークの「メトロポリタン美術館展」が開幕して話題をさらっている。久し振りに欧米の大美術館のコレクションが、同時期に東京で見られるのである。

しかしよく見れば、二つの展覧会の内容は似て非なるもの。片やドレスデン展は17世紀オランダ絵画の黄金時代の室内画や人物画、風景画に絞ったかなりテーマ性のはっきりした構成だし、片やメトロポリタン展の方は「西洋絵画の500年」と副題にうたうように、所蔵する多数の名品を散りばめ、ルネッサンス以降19世紀までのヨーロッパ絵画全体の流れの中にひとつの美術館のダイジェストを見せる豪華な展覧会である。

そうした中で両展の白眉が、レンブラントと並んで17世紀オランダを代表する画家、ヨハネス・フェルメール(デルフト1632 – デルフト1675)の作品だ。まずドレスデン展に出品されているのが、画家初期の代表作の一つ《窓辺で手紙を読む女》(1657-59年頃)である。この絵の修復が2017年から2021年まで執り行われた際に、画面奥の壁からかつて画家自身の筆で描き込まれていたキューピッドの姿が現れ、大変な話題となった。今回の日本における展示は、修復完成後、2021年9月に現地で催された展覧会に続くお披露目となる。次にメトロポリタン展で展覧されるのは、この画家としては珍しい、比較的大型のカンヴァス(114.3x88.9㎝)に寓意的な人物像を大きく描き出した作品《信仰の寓意》(1670-72年頃)である。

ヨハネス・フェルメール
《信仰の寓意》 1670-72年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931 / 32.100.18

言うまでもなく、フェルメールは日本のみならず世界中で愛されている。その理由の一つは、19世紀後半まで画家の存在が忘れられていて、真作を数えても僅か35点ほどにしかならないという希少価値がある。そして何よりも、《デルフトの風景》、《真珠の耳飾りの少女》、《牛乳を注ぐ女》などに見られる簡潔な造形と、日常の一瞬の中に永遠を写し取ったような静謐さが、現代に生きる我々の心に直接響くことが挙げられる。
 
おそらく、ドレスデンの作品はそうした本来のフェルメールのイメージに近いが、存在感のあるキューピッドの現出はまた新たに複雑な画家の姿を呼び起こすだろう。そして、メトロポリタンの画面は、カトリック信仰を象徴する女性像とそれを囲む様々な事物に強い宗教心を凝縮・具現し、フェルメールを囲むプロテスタント(新教)国家オランダの錯綜した社会状況を垣間見せる。
 
同じフェルメールの作とはいえ、かなり違った雰囲気を持つ貴重な2点の作品を初春の東京で見比べるのはなかなか興味深い。大型展覧会を2つも訪れるのというのは、年齢を重ねるに従い次第に苦痛になってくるものだが、それでも上野⇔六本木は日比谷線に乗れば直通で、思いのほか容易に移動可能だ。ただ、ほとんど東京を半周するのでその間には13の駅があり、御徒町、秋葉原、人形町、八丁堀、築地、銀座から日比谷、虎ノ門ヒルズ等々、見所満載の場所が続く。でも寄り道はせず、2つの駅をしっかりと結んで大事な目的地を足早に目指してほしい。ではどうぞ良き一日を!

ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展
 
会期|開催中〜4月3日(日)
会場|東京都美術館 企画展示室
開室時間|9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休室日|月曜日、3月22日(火) ただし、3月21日(月・祝)は開室
お問い合わせ|050-5541-8600 [ハローダイヤル]
※日時指定予約制
 
■展示作品、会期等については、今後の諸事情により変更する場合がありますので、展覧会公式サイト等でご確認ください。

 
■巡回展

【北海道展】
北海道立近代美術館  2022年4月22日(金)〜6月26日(日)

【大阪展】
大阪市立美術館  2022年7月16日(土)〜9月25日(日)

【宮城展】
宮城県美術館  2022年10月8日(土)〜11月27日(日)

メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年
 
会期|開催中 - 2022年5月30日(月)
会場|国立新美術館 企画展示室1E
開館時間|10:00 - 18:00 [毎週金・土曜日は20:00まで 入場は閉館の30分前まで]
休館日|火曜日[ただし、5月3日(火・祝)は開館]
お問い合わせ|050-5541-8600 [ハローダイヤル]
 
■会期等、今後の諸事情により変更される場合があります。展覧会ホームページでご確認ください。

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写真家

植本 一子