ヴァレーギャラリー 撮影:宮脇慎太郎

これはまた直島に行く理由ができたと思った人も。あるいは、これはいよいよ直島に行かなければという人も。拡張、充実し続けるベネッセアートサイト直島に今春また魅力的な展示施設が2つオープンした。一つは安藤忠雄の設計による「ヴァレーギャラリー」、もう一つは杉本博司の美術作品、建築作品を展示する「杉本博司ギャラリー 時の回廊」である。🅼

「観光」についてだけ語れば明るい話題は少なく、全世界的にちょっとした休眠状態に入っているようなものだ。それ以前、われわれも実際にあちこちに出かけたし、出かけるつもりならいつでも出かけられる自由があった。外国から多くの観光客が来日していたが、この地で彼らが目指すのは、TOKYO、KYOTO、そして、NAOSHIMAだった。

それは言えてる、確かにそういうふうにこのNIPPONが見られるのは良いことだし、「ナオシマってどこ、それ?」ではなくて、「そこでNAOSHIMAって出てくるのが、カッコいいね」と言える知識と感覚と余裕がなければ、世の中に追いついていっていないとも言える。それはこの国がどう見られているかという俯瞰的視点だけでなく、実はビジネスや教育という身近な関心事とセットである。

直島の宮浦港。高松、宇野から船が着き、現代アートの旅が始まる。
写真提供:ベネッセアートサイト直島

瀬戸内海は日本で最初に国立公園に指定された地域の一つだが、NAOSHIMA=直島はその瀬戸内海に浮かぶ島だ。もともと福武書店(現・ベネッセホールディングス)は1980年代後半から安藤忠雄監修によるキャンプ場「直島国際キャンプ場」を運営していたが、それをリニューアルし、安藤忠雄の建築による美術館とホテルの複合施設ベネッセハウスがオープンしたのが1992年、その後、民家や集会所、神社など建物そのものを作品化する家プロジェクトを起こしたり、地中美術館、李禹煥美術館などを加え、現代アートと建築の発信地となった。

さらに、周辺の豊島(てしま)、犬島なども含め、ベネッセアートサイト直島として包括し、その活動は世界中のアート関係者も注目、『コンデナストトラベラー』などの旅行雑誌の人気目的地でも常に上位を獲得、有名ガイドブック『ロンリープラネット』でも重視されている。

ベネッセハウス30周年を迎える今年、その直島に2つのギャラリーが開設された。一つは安藤忠雄建築としては9つ目となる「ヴァレーギャラリー」でここには草間彌生、小沢剛の作品が展示される。もう一つは杉本博司の写真、彫刻、建築それぞれの作品を展示する「杉本博司ギャラリー 時の回廊」である。

安藤忠雄建築に草間彌生の歴史的作品と小沢剛の地域ゆかりの作品

ベネッセハウスから李禹煥(リ・ウファン)美術館に向かう途上の山間にできたのがヴァレーギャラリーだ。祠をイメージしたという、半屋外建築とそれが位置する谷がなす屋外空間一帯を含めた作品展示空間。谷間というものはそもそも気候的に厳しく、また建築用地としても当然、困難ではあるが、それは考え方を変えれば聖域である要件を備えていると言える。風雨や陽光を敏感に感じ取ることができ、また、春先にはヤマツツジに覆われる斜面に囲まれた場所だ。

谷が成す地形に寄り添うように建てられている。屋根は完全に建物を覆うわけではなく、切り込みのような形状とその機能で光と空気を取り入れる。
ヴァレーギャラリー 撮影:矢野勝偉

建物は、地形に従い、30度に開いた台形平面を持っている。壁はコンクリート、屋根は12ミリ厚の鉄板。屋根は建物全体を覆わず、シフトや切り込みによる開口部があるので、建物内部に雨、風、光が入る。

建物の内部と庭に草間彌生の《ナルシスの庭》が広い範囲で展示されている。ステンレスの球が室内、水面、芝生にこぼれるように広がり、球はお互いの球、周囲の風景、球を見る者を無限に映し出す。

草間彌生《ナルシスの庭》(1966/2022)建物の屋内、階段上の半屋内、外部にあたり庭まで無数の球が連続的に連なる。
Yayoi Kusama, Narcissus Garden, 1966/2022, Stainless steel spheres, Copyright of Yayoi Kusama 撮影:森山雅智

さらに、池辺には小沢剛《スラグブッダ88―豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏》が建立、恒久展示されている。直島に点在する88の仏像を模刻した上、型を作り、そこに豊島の産業廃棄物であるスラグを流し込んで作った。これは、2006年から展示されているものを一部手直しして展示している。

スラグブッダは「直島スタンダード2」展のときに設置されたが、その場所に「ヴァレーギャラリー」が建てられ、展示がリニューアルされた。
小沢剛《スラグブッダ88― 豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88 体の仏》2006 /2022年 撮影:森山雅智

展示を手掛けたベネッセアートサイト直島インターナショナルアーティスティックディレクターの三木あき子氏は「《ナルシスの庭》は、草間彌生さんが1966年のヴェネチア・ビエンナーレでパビリオンの外の芝生に大量のミラーボールを敷き詰め、世界的注目を集めることになった記念すべき作品です。小沢剛さんの《スラグブッダ88》は、直島の歴史に残る八十八ケ所の仏像をモチーフにしています」と語る。

杉本博司の活動を凝縮したかのような空間に仕上がった

杉本博司《タイム・エクスポーズド》1980-97年 レストランのテラスに「海景」シリーズが掛けられている。壁の間から見える瀬戸内海と「海景」の水平線が揃う。
写真提供:ベネッセアートサイト直島

杉本博司も直島とは縁が深い。「海景」をベネッセハウスの壁に掛け、屋外展示しているほか、岩場にも「海景」を設置してある。2002年には「家プロジェクト」の一つとして、護王神社の再建を手掛けた。もともとベネッセハウス パークに設置されていた写真作品、彫刻に加え、ラウンジや屋外にまで拡張し、作品も建築・什器的なものまで広げた「杉本博司ギャラリー 時の回廊」としているが、これは杉本の活動範囲の拡大に歩調を合わせているように思える。

ラウンジには杉本の設計による大型のプリズムが設置され、外光を取り込み、分光し、虹のような効果を生じさせる。壁に掛かる作品「Optics」シリーズの種明かし。
杉本博司ギャラリー 時の回廊 ラウンジ風景、2022年 撮影:森山雅智

「時の回廊 ラウンジ風景」からはガラス越しに杉本の作品《硝子の茶室「聞鳥庵」》が、見える。安藤忠雄建築に見事に調和している。
杉本博司ギャラリー 時の回廊 ラウンジ風景、2022年 撮影:森山雅智

このスペースには《松林図》や《光の棺》、《観念の形003オンデュロイド:平均曲率が0でない定数となる回転面》が展示されていたのだが、この度、「ジオラマ」シリーズや「Optics」シリーズも加わった。

杉本の「ジオラマ」シリーズより。左端遠くにライオンのつがいがいて、ハイエナ、ジャッカル、ハゲタカが犠牲の動物に群がる様子。ニューヨークのアメリカ自然史博物館のジオラマをあたかも自然の風景のように撮っている。
Hiroshi Sugimoto, Hyena-Jackal-Vulture, 1976, gelatin silver print, 119.4 x 149.2 cm (c) Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

「Optics」は太陽光をプリズムで分光させ、それにより生じた光(色彩)をポラロイドカメラで撮影し、それを拡大し、プリントしたシリーズ。
Hiroshi Sugimoto, Opticks 020, 2018, type-C print, 119.4 x 119.4 cm (c) Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

展示はさらに屋外にまで広がり、そこには杉本の設計による《硝子の茶室「聞鳥庵(もんどりあん)」》が設置されている。2014年のヴェネチア建築ビエンナーレの時に発表され、その後、パリ郊外ヴェルサイユ宮殿、京都市京セラ美術館と巡回してきたこの茶室だが、ここに落ち着いた。

四方と天井をガラスで囲った《硝子の茶室「聞鳥庵」》はヴェネツィアのサンジョルジョマッジョーレで発表され、ヴェルサイユ宮殿トリアノン、京都市京セラ美術館と巡回してきたが、ここ直島に安住の地を見つけた。
Hiroshi Sugimoto, Glass Tea House ” Mondrian” , 2014(c) Sugimoto Studio The work originally created for LE STANZE DEL VETRO, Venice by Pentagram Stiftung

この「時の回廊」が完成したことで、護王神社とともに、杉本の作品を体系的に見られることになったとも言えるだろう。

三木氏によれば、「『時の回廊』とは、建築空間や自然環境を回遊し体感することを促す安藤建築の特徴や、杉本氏が追求し続ける時間に対する問い、そして彼らの長年にわたる直島との関係性などを反映し、宿泊者や鑑賞者に自然の変化や壮大な時間の流れを体感、歴史や生きることについて思索を巡らせてもらうことを意図するものです」ということだ。

以上、今回新たに、2つのギャラリー、3人の作家の作品が追加された直島。新しい展示、改装された展示、追加・拡張された展示とそれぞれだが、直島の魅力を一層高めたのは間違いない。

■情報
 
  
「ヴァレーギャラリー」
 
場所|香川県香川郡直島町琴弾地
開館時間|9:30〜16:00(最終入館15:30) 年中無休
入館料|ベネッセハウス ミュージアムの入館料(1,300円)に含まれる ※ベネッセハウス宿泊者は無料
チケット販売|ヴァレーギャラリーおよびベネッセハウスミュージアム

「杉本博司ギャラリー 時の回廊」
 
場所|香川県香川郡直島町琴弾地(ベネッセハウス パーク内)
開館時間|11:00〜15:00(最終入館14:00) 年中無休
入館料|1,500円(カフェスペースでのお茶とお菓子代込み)
チケット販売|オンラインチケットetixでの事前購入

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